2018年10月21日(日)「精神障害を専門としていない作業療法士のための研修会【応用編】」 を取材しました!【ふじみ野キャンパス:学生記者】
2018年10月21日(日)に、埼玉県総合医局機構地域医療教育センターにて、埼玉県作業療法士会主催「精神障害を専門としていない作業療法士のための研修会【応用編】」が開催されました。こちらの研修会は、文字通り精神障害を対象とする機会が少ない作業療法士の先生方に対して、精神障害を専門としている作業療法士の先生が自身の経験談を踏まえて講義を行うものです。また研修会の特徴として講師が一方的に講義を進めるという形ではなく、「突っ込み座長」という、講義中に講師に質問を突っ込む先生がおり、講義を大いに盛り上げてくださいます。
今回は、6月9日(土)に行われた【基礎編】をさらに深め、より臨床場面に即した講義の内容となっていました。加えて今回は、特別講師として当事者である宮澤秀一氏をお招きし、実際の経験談を踏まえたお話も含まれていました。
▲(写真左)全体進行 土屋美樹先生、(写真右)開会あいさつ 佐藤竜也先生
午前の部
「OTにやれること、OTがやるべきこと~よりそいと深堀と、時々、逸脱~」
講師:埼玉県立精神医療センター 急性期病棟担当 宇田英幸先生
突っ込み座長:埼玉県立大学 教授 大橋秀行先生
済生会川口総合病院 坂爪志成先生
講義は、宇田先生が担当した対象者の方についての話を軸とし、対象者の方と関わる中で宇田先生がどのような視点で対象者の方を見ていたのかについての内容でした。宇田先生の関わり方は、まず初めに対象者の方に「野望」を尋ねて、その野望を進めるために情報を集めたり、環境を整えたりしていました。ここでの「野望」とは、宇田先生なりの表現であり、希望や困っていることと尋ねた場合に、曖昧だったり、一般的に多い解答であったりするため、そこからさらに掘り下げることで見つかる真の狙いのことを表しているそうです。その当事者の野望を進めるための評価や作業療法プログラム、宇田先生と当事者だけでなく周りのスタッフもその気にさせる方法についてもお話がありました。
▲(写真左)講師 宇田英幸先生、(写真右)突っ込み座長:大橋秀行先生・坂爪志成先生
「その人らしく地域で暮らすためのマネジメントと作業療法との協働」
講師:狭山保健所 精神保健福祉士 濱谷翼先生
突っ込み座長:松風荘病院 原裕如先生
埼玉県立精神医療センター 荻野洋子先生
特別参加 小林先生
講義は、宇田先生と共に担当した事例についての紹介があり、続いて精神保健福祉士としての濱谷先生の考え、作業療法士としての宇田先生の考えについてお話があり、最終的に二人の意見を合わせた上で導かれた事例の処遇を紹介するといった内容でした。濱谷先生は、対象者の社会復帰や地域との関わりをつくるためには1つの職種で対応するのには限界があるため、チームとして支援することが重要になると話されていました。そのため、通所型施設を利用する際、作業療法士が同行し、関係者会議でも作業療法士や臨床心理士と情報共有をしていたと話していました。
最後の事例では、どのような支援や働きかけをしたらよいか、研修会に参加している先生方にもアイディアを出してほしいということから、グループに分かれて考えました。発表では多角的に考えられた意見が多く挙げられていました。
▲(写真左)講師 濱谷翼先生、(写真右)突っ込み座長 原裕如先生・小林先生・荻野洋子先生
午後の部
「理解に苦しむ世界に住む人たちとの共生とは」
講師:埼玉県立大学 教授 大橋秀行先生
突っ込み座長:埼玉医科大学国際医療センター 鈴木真弓先生
埼玉県立精神医療センター 宇田英幸先生
午後の部最初の講義は、大橋秀行先生の医療観察病棟での臨床経験を中心とした内容でした。その中で、強い妄想を持った対象者の妄想の世界について話して下さいました。他害行為に至るほど強い妄想を抱えていましたが、対象者の妄想の世界観について話を掘り下げるほど、妄想世界にはきちんとしたストーリーがあり、その奇想天外な内容に会場内は驚きながらも聞き入っていました。また別の対象者では、妄想のストーリーの中に細かく設定までつけられており、作業療法士がその妄想世界に合わせて対象者に接したところ、本人も落ち着いて過ごせたそうです。
講義の最後には、妄想にはその人独自の世界観があり、妄想の世界観が心身の支えの役割を果たす場合もあるため、病的症状がすべて悪い方向に作用するわけではないということを伝えてくださいました。
▲講師 大橋秀行先生
「自由と責任、そして挑戦を支えて欲しい」※ダーツde質問コーナー
講師:トライ・ザ・ブルースカイ 代表 宮澤秀一氏
埼玉県立精神医療センター 西村稲穂・土屋佳実先生
最後の講師は、自身が精神障害の当事者であり、今はその精神障害の方を支える団体トライ・ザ・ブルースカイに所属している、宮澤秀一先生が講師を務めて下さり、宮澤さんが病院に入院してから、どのように過ごし、どのようにして、今の活動に至ったのか話をしていただきました。大学に行ったり、就業したりするために、多くの経験を積んできた宮澤さんが、苦労した中で何を学び、どんな人たちと関わってきたのか、事細かく話して下さいました。また、宮澤さんの生きがいでもあるダーツについての話では、世界大会に出て他国の人に自身のことを覚えていてもらい、声をかけてくれたことにとても感銘を受けたそうです。話の最後には、今までは何をやるべきか曖昧でまさにモノクロのまっすぐな道だったが、多くの経験や出会いを繰り返し、様々な可能性を考えるようになり、宮澤さんの歩く道が虹色の曲がりくねった道に変わったと話してくださいました。
▲(写真左)講師 宮澤秀一さん、(写真右)ダーツde質問コーナー
午後の講義最後は、宮澤さんのダーツを用いた質問コーナーを行いました。参加者の方には番号のついた紙に講義の感想や宮澤さんへの質問を書いてもらい、宮澤さんがダーツで当てた番号の紙を読み上げるといったルールでした。ダーツの的は、回転させて無作為に番号を決める形でしたが、ダーツのプロである宮澤さんは、宣言した番号に的確に命中させていたため、会場からは「おーー!」という歓声が響き大いに盛り上がりを見せていました。最後の最後まで盛りだくさんな内容の研修会は無事に終了し、研修会終了後も参加者の先生方同士でディスカッションしている場面が多くみられました。
今回【基礎編】も含めて、このような素晴らしい研修会を開催してくださった実行委員会の先生方、研修会に参加の先生方、そしてこの日貴重なお話をしてくださった宮澤さん、本当にありがとうございました。
▲ダーツde質問コーナー
【学生記者より】
今回の研修会に参加し、大学での勉強だけでは得ることの出来ない内容を学ぶことができ、充実した時間を過ごすことができました。講義の内容も事例を通した内容で、イメージがつかみやすく分かりやすかったです。講師の先生方のお話は、聴きやすいうえとても面白かったです。講義で精神障害の見立てや評価、関わり方について学ぶことにより、精神障害の方に対する対応について、難しいことは考えず、素直に相手の話を受け止め、その中で得られたことを自分の言葉で伝えられるようになりたいと思いました。
私はこの精神障害を専門としていない作業療法士のための研修会の【基礎編】と【応用編】の両方に参加しました。どちらもためになる内容でとても楽しむことができました。その背景として研修会に参加していた作業療法士や精神保健福祉士などの先生方と関われたことが影響していると思いました。学生の意見を真摯に受け止めてくださり、その考えの良さを見出してくれたことにより、自身の考えを述べることに関して少し自信を持つことができました。こうした実際の現場で働く先生と、学生が関わることができる機会があることによって、学生にとっても新しい発見が得られるのではないかと思いました。研修会参加者の先生方はもちろんのこと、このような場所、機会を提供して下さった実行委員会の先生方に感謝の言葉を申し上げたいと思います。本当にありがとうございました。
◆取材・記事執筆 作業療法学科3年 小口 裕士