大学院

【福祉医療マネジメント研究科】公開授業「非営利組織経営入門」を実施しました!

2024.09.17

福祉医療に携わるあなたのための非営利組織経営入門 

~非営利組織は面白い。だから深く考えよう!~

 

2024年9月7日(土)、本研究科特任教授(「福祉医療の戦略経営Ⅰ・Ⅱ」」担当)の髙橋淑郎先生による公開授業が、第1部(午前)/第2部(午後)に分けて行われました。

 

【第1部】

①世界の非営利組織を網羅し、分類して、非営利組織とは何かを考える

②さまざまな非営利組織の誕生から現在までの変化・発展を理解する

 

🔳NPOの一般的な理解と非営利組織の広い範囲

最近はNPOという言葉が一般的に使用されてきていますが、その多くが1990年代から台頭してきた「いわゆるNPO」のことをのみを指している傾向があります。しかし、非営利組織という組織の範囲について、「伝統的な病院、学校、社会福祉施設、一般社団(財団)法人や公益社団(財団)法人なども、わが国の社会基盤として重要であることを再認識する必要があります。本講義では伝統的な非営利組織と、最近の「いわゆるNPO」としての公益を担う民間活動を含めて考え、国や市町村行政や地方独立行政法人などは除いて考える」と整理されました。

 

🔳非営利組織の具体例とセクター論

また、非営利組織の例として、病院や社会福祉法人などについての根拠法や位置づけ、特徴や営利組織との違いなどを指摘されました。さらに、経済学的な視点からは公共財としての政府セクター、私的財としての私的セクター、準公共財としての非営利セクターという3つのセクター(セクター論)の機能について説明した上で、それら3つのバランスの重要性を指摘されました。

 

🔳非営利組織の公共性と日本における認識

そして非営利組織がもつ公共性については、特に、「特定の誰かにではなく、すべての人々に関係する共通のもの、誰に対しても開かれていること」であるとのことです。しかし日本では、public=公と認識はされているものの、日本語においては、どうしても「公と私」あるいは「官と民」というように従来からの上下関係の語感があり、英語のような水平的な関係が見えないと指摘されました。

 

【第2部】

日本の非営利組織の現在までの歴史とその成果を考える

日本の公益法人改革の成果と課題

 

🔳日本における非営利組織の歴史的展開 

日本における非営利組織の歴史的展開として、聖徳太子の悲田院、施薬院などの取り組みから、結、講、座などの伝統的非営利組織について紹介されました。そして現代社会はそれらの影響をいかに受けているのか、特に、講の発展形態体として、二宮尊徳の思想である報徳思想の普及と、道徳と経済の調和・実践を説き、農民の困窮救済をめざした報徳運動が、明治時代に、関東から東海にかけて数多く設立された報徳社のモデルになったことから、信用金庫の原点が生まれてきたこと、あるいは江戸期の士農工商の身分制度の中で、一般的には、「講」の受益者は講の仲間に限られるのですが、この秋田感恩講のように、仲間以外の不特定多数の救済を目的とした組織を、指すようになった点が素晴らしいところというように、その意義について指摘されました。

 

🔳特定非営利活動促進法の施行とその影響

阪神淡路大震災の後、1998年に特定非営利活動促進法(NPO法)が施行され。その後、NPO法人は数を増やし(現在49,000台で推移しています)、公共の担い手として活動範囲を広げたとのことです。特定非営利活動促進法は、従来の法律とは違い、市民が各党派の議員と対話をしながら多くの案を出し合い作り上げたもので、その過程で全国で開催された学習会や集会はかなりの数に上りました。市民活動関係者、議員、企業、研究者など様々な立場から多くの人々が参加し、議論を重ねて作った法律だけに、細部にわたってこだわりを持って作られています。そうした関係者の思いが、法律の目的を記した第1条に凝縮されているということが述べられました。

 

特定非営利活動促進法の第1条に、「ボランティア活動をはじめとする市民が行う自由な社会貢献活動としての特定非営利活動」ありますが、市民活動という言葉は日本では比較的新しい言葉であり、概念が十分浸透していません。また、日本のNPO法人は、アメリカのNPOと異なり、日本における官尊民卑の風土の中、官の役割が変化する中で市民が自らの「思い」を実行し、社会に役立てたいということがこれらの活動が活発化した大きな要因でした。

 

🔳市民活動の浸透と日本とアメリカの違い
さらにアメリカでのNPOの発展過程が、レーガノミクスにおける小さな政府指向との関連で紹介されました。
アメリカでは以前から、大学、病院、美術館・博物館などの多くの非営利組織があり、社会福祉サービスも、その多くを伝統的非営利組織が提供してきました。そのような中で、新自由主義をまい進したレーガノミクスで、小さな政府を指向したことで、行政の業務範囲をより絞りました。それに反比例して、民間非営利組織が社会サービスの多くを提供するようになってきました。このようにアメリカのNPOの発生、成長プロセスが異なることを指摘されました。日本における現状として、公益法人制度改革の関連3法を紹介し、これら新法により一般社団法人、一般財団法人等の設立は容易になったと説明されました。しかし本来の非営利組織は、社会の期待に応えることができなければ、仮に効率的に組織が運営され、利益を確保できたとしてもそれはもはや非営利組織としての存在理由を失ってしまうという点を鋭く指摘されました。

 

当日は、本研究科のアドバイザリーボードの方々を中心に16名の参加者があり、10時から16時まで、途中休憩を挟みながらも長時間、高橋先生の熱意のある講義に聞き入っていらっしゃいました。

 

本研究科では、今後も研究科の先生方による公開授業を実施する予定です。専門職大学院ではどのような授業が行われているのか?関心がある方は是非、ご参加くださいますようお願い申し上げます。

 

           福祉医療マネジメント研究科

 鳥羽美香