【福祉医療マネジメント研究科】第6回公開セミナーを開催しました
タイトルは「災害に備える―地域・組織の協働とマネジメントの課題」です。近年、わが国では大規模な災害が頻発しており、災害支援は、福祉・医療専門職にとっても重要な課題となっています。ボランティアや専門職能団体、医療機関、社会福祉協議会、社会福祉施設などにおいて、専門職と地域住民が連携・協働する体制づくりが求められています。
今回は以下の3名の方が報告し、その後ディスカッションを行いました。
🔳人間学部人間福祉学科長・教授 中島修先生の報告
中島先生は「地域における災害時の福祉支援とソーシャルワーク~孤独・孤立を防ぐ視点を中心に~」としてまず、わが国の災害対策法制に関して説明されました。わが国においては災害の予防、発災後の応急期の対応及び災害からの復旧・復興の各ステージを網羅的にカバーする「災害対策基本法」や「災害救助法」、「被災者生活再建支援法」等で対応する仕組みとなっており、「災害救助法」は、発災後の応急期における応急救助に対応する主要な法律ですが、「福祉」の位置づけがないことについて話されました。そのことを踏まえ、平成25年と令和3年に改正された「災害対策基本法を一部改正する法律」の概要について話されました。改正のポイントは以下の通りです。
①大規模かつ広域な災害に対する即応力の強化等
②住民等の円滑かつ安全な避難の確保
③被災者保護対策の改善
④平素からの防災への取り組みの強化
以上を踏まえ、中島先生は、被災地支援においては、被災者支援のみならず、「支援者支援」も重要なことを強調されました。それは、第一に、被災地支援者を支える仕組みが必要であり、第二に、外部支援者が勤務地に戻る際にもバーンアウトを防ぐためにも、福祉従事者が災害時における福祉支援の意味を理解しなければならなず、そのためには、「災害時ソーシャルワーク論」が独立した科目として存在し、専門教育課程において、災害時に関連した福祉支援の在り方を学ぶことは、災害の多いわが国においては不可欠であると論じられました。
🔳全国社会福祉協議会 地域福祉部長 高橋良太先生の報告
社会福祉協議会では、能登半島地震の被災地のうち、とくに被害が甚大な石川県に対して、全国の社協職員、社会福祉・法人・福祉施設等の福祉関係者の協力を得て、①災害ボランティアセンターの設置・運営、②生活福祉資金特例貸付の実施、③ 避難所等への災害派遣福祉チーム(DWAT)の派遣、④被災福祉施設等への介護等職員の派遣、⑤地域支え合いセンターの設置・運営を行いました。
石川県における被災者見守り・相談支援等事業 実施体制では、被災9市町行政 と被災9市町地域支えあいセンターとの連携、石川県行政と、石川県地域支え合いセンター(石川県社会福祉協議会)との連携(相談員等向け研修会の開催・アドバイザー・専門職派遣・連絡会議の開催・市町外避難者支援ネットワークの運営支えあいセンター)、そして市町地域支え合いセンター (県南10市町社協)への支援(生活支援相談員の配置 ・訪問活動、安否確認 ・各相談支援機関へのつなぎ・コミュニティづくり)、これらの連携、協力機関として、石川県社会福祉士会 ・専門職団体 ・石川こころのケアセンター ・石川県関係各課 (復興部、土木部) ・生活困窮者自立支援機関 ・地域包括支援センター ・ハローワーク ・社会福祉法人 ・NPO法人 ・ボランティア団体 ・民生委員児童委員 ・自治会 ・市町行政 等の体制がとられたということです。ここでも社会福祉協議会は大きな役割を担ってきました。
こうしたネットワーク支援のなかでは、マネジメントをどのようにするのか、どこが中心となるのか、ということが課題となってきます。高橋先生は災害ケースマネジメントの重要性についても述べられました。中でも、困りごとを訴えない・訴えることのできない被災者への「アウトリーチ」の重要性を指摘されました。
最後に、能登半島地震での災害福祉支援活動を踏まえた課題として、①高齢化の進行、世帯構造の変化等に対応した支援の必要性 ②避難所に取り残される社会的脆弱性を抱えた人への支援の必要性 ➂在宅避難者や車中泊等、避難場所の多様化に対応した支援の必要性 ④災害関連死の防止を目的とした長期的な支援の必要性 ⑤いつまでも生活再建に進めない人の支援の必要性 ⑥福祉サービス利用者の命を守るために、災害救助としての福祉支援の必要性 ⑦災害ケースマネジメント体制の構築と自立・生活再建に向けた継続的支援の必要性について述べられました。
🔳人間学部人間福祉学科助手 平野裕司先生の報告
平野先生は「災害時における生活再建支援の必要性と課題~過去の災害から紐解く災害への備え~」と題して報告をしました。
そして、生活再建には多くの課題が伴い支援を必要とする、ということを災害派遣福祉チーム(DWAT:Disaster Welfare Assistance Team)や公益社団法人日本医療ソーシャルワーカー協会の石巻市における支援事例などをあげ、災害時だけではなく、平時における災害福祉支援ネットワークの構築の必要性について述べられました。
さらに過去の災害から紐解く支援の必要性と課題としては、災害時における被災住民の分類について、被災者を一括りに捉え支援することは困難であり、要配慮者・災害時要援護者またはそれ以外の人に分類し支援をすることも困難であることから、Ⅰ層:被災前から長期施設入居しているまたは在宅で継続的かつ濃密な支援が必要な人、Ⅱ層:発災以前より支援を要しており、避難生活やその後の生活に個別支援が必要な人、Ⅲ層:被災前には支援を必要とせず、被災で生活の維持機能が崩壊、復旧・復元・生活維持が困難な人、Ⅳ層:一般的な社会サービスの復旧・回復によって問題の解決ができる人、と4層に分けて検討、令和6年能登半島地震においては、特にⅠ・Ⅱ層該当者が抱える生活課題とその要因を指摘しました。さらには、もともと支援を必要として人たちは、生活基盤が弱く、災害によってさらに多くの生活課題を抱えることが明白であり、そのため集中的な支援が特に必要であることについて、支援事例をもとに説明されました。
また、発災後の人々の生活は日々変化していくため、避難所から仮設住宅、仮設住宅から復興住宅等へ移転する時期に生活設計・見直しや諸手続き等が必要になります。そうした時に必要な書類の入手、管理、記入、提出の手続きに関する生活課題を抱える人が多くいます。とりわけ、意思決定能力・生活技術能力・家政管理能力の低下により手続きや生活設計・見直しができていない人へのソーシャルワーク実践が求められることについても話されました。
まとめとしては以下の5点を挙げられました。
①変化する生活課題への対応・ステージの変遷に伴い、被災者が抱える生活課題が変容する
②災害時における被災住民の分類
③中長期的な支援を展開できるシステム
④災害時においても支援を展開できる人材養成
⑤求めと必要と合意に基づく支援の展開
以上、3名の先生からの白熱した報告があり、フロアからも多くの質問が出ました。参加者は人間福祉学科の卒業生で専門職として働く人たちも多く参加し、23名でした。
災害時支援は、日常的な支援の延長線上にあることは言うまでもありません。 日常的な支援における包括的支援体制の構築が、災害時にも対応できるようになると思われ、また被災した被災者支援を中長期的な視点でとらえることや、支援者側がバーンアウトしないよう、支援者支援の必要性も感じ、今後多職種連携を考える上でも示唆のあるシンポジウムでした。
福祉医療マネジメント研究科 鳥羽美香